2017年09月01日

Lars and the real girl friend〜魂の救済措置


映画『ラースと その彼女』観てみました!

Lars and the real girl(USA 2007年)



〜あらすじ

田舎町に住むラースは、シャイな独身男性。兄夫婦の家の裏で
おとなしく一人暮らしをしています。
ある日ラ−スは兄のガスと妻カリンに「彼女が出来たから紹介する」と
告げます。大喜びする二人でしたが、ラースが連れてきたのは
人形のビアンカだったのです…。

感想(※ネタバレあり)

これは公開当時から知っていたのですが、観るのを躊躇して
いた映画です。ダッチワイフとセックスする人のドキュメンタリーなど
受け入れられなかった私は、積極的に見る気になれませんでした。
(ネットで感想を読むと、そう思っていた人は結構な割合でいました。)
10年経った今は、大人になり許容範囲が広くなったのだと思います。

いざ観てみると、良心的に作られた、内容がある良い映画でしたね。
テーマは真面目に掘り下げてあり、脚本も丁寧です。

まず冒頭からラースが独り者であることに”Are you gay?”
と聞かれるのです。これは西洋社会にいる私にはとてもよく分かるのですが、
西洋の方がパートナー同伴で過ごすことが多いので、交際相手が
いない人間は肩身が狭い思いをします。
兄には”You spend so much time by yourself!”と説教され
大人しい性格のラースには徐々にストレスになっていくのです。
これは日本でもよくあることですが、独身者にとって「いい人いないの?」
という周囲の挨拶代わりのような質問が、当事者にとってはかなり
プレッシャーになります。

ラースは人形ビアンカと恋人関係を持つことで、日々の生活での
ストレスが軽減されます。人に何を言われてもビアンカとの
二人きりの世界が、外界の辛さからラースを守ってくれるのです。
ラースはビアンカに話しかけることで、ほっとくつろぐことが出来て
優しい気質の自分を保っているのです。

329674view005.jpg

「ビアンカは医者に診せる必要がある」という口実で、兄夫婦はラースを
病院に通院させるのですが、担当医にラースは兄の妻にハグされるのが
嫌だということを告白します。
ラースは生身の人間との触れ合いに強い拒否反応があり、
そのために普段から何重も服を重ね着している、と言います。
これはそのままラースが対人関係に持っている壁の厚さを示しています。

larsandtherealgirllrg2.jpg

そして町の人々はラースの異常な行動に理解を示します。
ビアンカをラースの彼女として受け入れて、美容院で彼女の
髪型を変えたり、本を読むボランティアの仕事をさせます。
(実際はその場に座らせて、オーディオブックを流しているだけ
という、町の人の涙ぐましいアイデア)。

bianca-hairdo.jpg


スケジュールが埋まっている彼女に、ラースは動揺し
大人しかった彼が、初めて激しくビアンカに怒ります。
兄の妻カリンは”She has her own life!”と言って
ラースを責めます。
そうです、ラースにとってビアンカはどこまでも自分にとって
癒しであり、都合の良い”人形”で無くてはならず、対等に
付き合う相手ではないのです。自分の知らないところで勝手な
ことをするのは許さないのです。(この辺は妻を一人の人間として
見ないで家に閉じ込めておきたい男性と関係性が似ていると思います)。

そしてラースはビアンカのいない時間に、同僚のマルゴと
ボーリングに出かけます。楽しくボーリングに興じた
ラースは、別れ際マルゴと素手で握手することが出来ます。
人に触られることをあんなに嫌がっていたラースが、
一つハードルをクリアした瞬間でした。

bowling3.jpg

現実の人間関係が苦痛でなくなったラースにとって、
もはや人形ビアンカとの妄想は整合性が取れなくなりました。
ラースはビアンカが重篤ということにします。
ラースが大人になるためには、ビアンカの存在を消す、という
通過儀礼を乗り越えなくてはならないのです。
ビアンカの死は彼にとって必然だったと言えるでしょう。

0286112_25426_mc_tx360.jpg

町の人はビアンカの大掛かりな告別式を行います。
ビアンカはお墓に眠り、ラースはマルゴと新しい一歩を
歩み始めるのでした。

126854008416316301468_lars03.jpg

※ポイント
町の人たちが尋常でない寛大さで、ラースの作った妄想に
付き合うことにより、逆にラースは自分の妄想に終止符を
打つことが出来たのです。
ここは大変勉強になるところです。
私たちはついつい常識で「そんなのおかしいよ!」と社会通念から
逸脱した行動を取る人を断罪してしまいます。
しかし彼らが息苦しい社会で生きることに、行き詰ってしまった末の
行動だとすればどうでしょうか?責めるだけでは問題を解決するどころか、
彼らを余計に苦しめるでしょう。
この町の人ほど優しくなれなくても、少しでも共感してあげることで
ラースのように自力で立ち直るようになるかもしれません。

面白おかしく茶化すことも出来るはずですが、
偏見が持たれないように、きちんと作ってあると思います。
マイノリティー問題についてお手本になる脚本ですね!
こういうところは、海外の映画はさすがです…。
posted by yuki at 19:49| Comment(2) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月27日

Underground〜渾沌(カオス)の世界


最近映画ばっかり紹介して、読者さんにプレッシャーを
かけているような気がしないでもないですが…(^-^;

今日ご紹介する映画は、『死ぬ前に観ておけ』リストに
入ると思う名作!

1995年、カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作です。

UNDERGROUND
(ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、
ブルガリア合作 1995年)




〜あらすじ
第二次世界大戦中のベオグラード、ナチスの爆撃を受け
街は酷い惨状になります。マルコは友人クロと仲間たちを地下に
かくまい、そこで生活しながら武器を密造させることにします。
マルコは武器商人として巨万の富を築きながら、一方で仲間には
「まだナチス占領が続いている、外に出るのは危険だ」と嘘をついて
戦争が終結したことを知らせないままにしました。
冷戦時代に入り、新政権の下マルコは大統領の側近としてのし上がります。
何も知らない仲間は地下で暮らし続けることになるのですが…。

第二次世界大戦から冷戦、ユーゴ内戦、ユーゴ・スラヴィアの
終焉までの50年をユーモラス寓話的で寓話的に描いた作品です。
と言っても、映画内ではプロットのようなものはありません。
全編に賑やかなトランペットの音が鳴り響き、登場人物は
銃を撃ちまくり踊りまくり、喧騒と狂気のカオスです。
2時間50分と長い映画ですが、退屈せずに観られると思います。

監督のエミール・クリストリッツァはボスニア紛争勃発で
「この映画を作らなくてはならない!」と強い使命を持って
制作したそうです。
その情熱が映画の隅々まで感じることが出来ます!
(本当にこんな映画よく撮れたね…どれだけお金かかったのかしら…)

日本は過去に一度も外国の占領下になったことはなく、独自の言語も
文化もそのまま残っていますが、世界にはこのように消えていった国も
数多くあります。そのことを考慮すると、私は日本文化をもっと大切に
しなくてはならないと思うのでした。

とにかく観るべし!

Underground 1995 (2).jpg

飼育係とオランウータンの絆に泣けます…。
posted by yuki at 09:59| Comment(2) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月26日

The Danish girl 〜アイデンティティー・クライシス


LGBT問題を描いた『The Danish girl』を観ました!


The Danish girl(UK USA,2015年)
邦題『リリーのすべて』




〜あらすじ
時は1920年代、デンマークの首都コペンハーゲンで、画家の
ゲルタは夫のアイナーと仲睦まじく暮らしていました。
ある日遊び半分で、ゲルタはアイナーを女装させてパーティーに
連れて行きます。その後アイナーは自分の中の女性性に、
目覚めてしまうのですが…

感想(※ネタバレがあります)

まず冒頭にこの夫婦が二人で笑い合い、とても仲が良いシーンがあります。
ゲルタは画商に自分の絵を持っていくのですが、君に良い主題があれば…
と言われて断られてしまうのですね。ここが伏線になります。
次に絵のモデルの友達が来られなくなってしまったので、夫のアイナーに
代役を頼みます。ここでストッキングを履き、ドレスを抱きしめたアイナーは、
自分の中に眠っていた本能に気づいてしまうのです。

1484591344_focusfeatures_thedanishgirl_tomhooper_eddieredmayne_aliciavikander_matthiasschoenaerts_benwishaw_amberheard_bg2.jpg

美しく着飾ったアイナーは自分をリリーと呼び、パーティーで
男性と話しているところを見たゲルダは困惑します。

firsttime.png

その後、もう女装は止めるようにゲルダはアイナーに告げます。
”I was Lily!”と言い返すアイナーですが、ゲルダは
”Lily does not exist!”とピシャリ。
その時のアイナーの表情!

cry-scene.jpg

目に涙をいっぱいに溜めた、こんな辛い顔!

もうエディ・レッドメンの演技上手すぎ!!


しかし自分の中身が女性と知ってしまったアイナーは
もう自分に嘘がつけず、周囲に本心を打ち明けるのですが
「貴方は病気だ、医者に診てもらおう」と病院に連れていかれるのです。

the-shocking-easter-egg-in-the-danish-girl-that-explains-everything.jpg

ギャー!!

ここで怖いのは妻のゲルダも周りの人間も医師も、アイナーのために善意で
彼を治そうとしているのです。この時代の人間はいかに性に対して固定観念が
あったか分かります。

しかし病気ではなく、本当に女性リリーとして生きたいと願うアイナーの
気持ちをゲルダはとうとう受け入れることにするのです。

12314159_1391321131167494_8011414272970933514_o.jpg

それは同時にゲルダにとって愛する夫アイナーを失うことを意味します。
ゲルダは彼の幸せを望みながらも、心に大きな葛藤を抱えることになりますが、
母のように献身的な愛で、彼を支え続けるのです。

2BE015BA00000578-3218411-Moving_The_film_which_stars_Alicia_Vikander_as_Gerda_Wegener_is_-a-2_1441119222363.jpg

アイナーは女性リリーとして、デパートの香水売り場で働くことになり
やっと自分らしく生きられる場所を見つけます。

tumblr_nzh3mfya3S1roci9qo1_1280.jpg


アイナーは世界で初めて性転換手術を受け、めでたく身も心も女性のリリーと
して生きることになったのですが、2度目の手術で容態が悪化します。

hqdefault80OHQX0O.jpg

死ぬ間際に、これでやっとリリーになれた…とリリーは
満足して息を引き取ります。

ラストはゲルダとリリーの絆だったスカーフが風に吹かれて舞い上がり、
空を飛んでいくのを見たゲルダは、リリーの魂が自由になったことを
喜ぶのでした。

はっきり言って自分はトランスジェンダー問題に深い興味が
ありませんでしたし、この映画を観たのも軽い気持ちからでした。
この映画はLGBTに限定されるものでなく、一人の人間が
自分のアイデンティティーを獲得するまでの長い闘いのドラマ
だったのです。
私たちは性別に限らず、社会で自分を様々なステレオタイプに
カテゴライズされて、本当に自分の欲求や自分のなりたい姿に
忠実に生きようとすることを否定され、止められてしまいます。
自分語りになりますが、私もさんざんオタクと馬鹿にされ、
もっと社交的で明朗快活な女性になれと周囲に強要されてきました。
そこでついに「もうオタクでいいや!プロになってやる!」
と私は開き直ったのです。
リリーは残念ながら亡くなってしまいましたが、リリーの勇気ある
行動は次世代に繋がり、今では先進国ではトランスジェンダーが
珍しくなくなりました。
やっぱり一回だけの人生、自分のやりたいことをやって
壁を打ち破らなくてはいけないと思わされましたね…。

ゲルダの無償の愛は本当に泣けます。
リリーには幸せになって欲しかったよ…。

copuple.png

その時代のファッションやインテリアも豪華で美しく、
芸術作品としても素晴らしい映画と思いましたね。
posted by yuki at 16:33| Comment(4) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする